「改めていうが、俺たちはこことは違う世界から来た。我がウォルディア王国の秘宝を盗み、この世界へ逃げてきた裏切者を見つけにな」
「裏切り者?」
俺が尋ねると、ケイロはまつ毛を伏せて物憂げに息をついた。
「王宮の近衛隊長マイラット――優秀で忠実な男だと思っていたんだがな、半年ほど前に宝物庫の最深部で厳重に保管していた百彩の輝石を盗み出し、姿を消した」
「……ケイロのワガママに嫌気が差したからだったりして」
思わず俺は小声で本音を零す。
細目でケイロがジロッと睨んでくる。「何か言ったか?」
「べ、別に……」
「まったく……話を続けるぞ。マイラットの行方は掴めなかった。ウォルディア国内だけではなく、俺の世界をくまなく探した。だが見つからず……世界の外まで探っていたら、お前が通う高校に紛れ込んでいることがやっと分かって、俺たちはここまで来たんだ」
つまり異世界から俺たちの世界を調べて、俺の高校にいるところまで絞り込んだってことか。
思った以上にスケールが大きいな……。
ケイロたちの世界や国がどんな所なのかさっぱり見えてこないけれど。違う世界を行き来できて、詳細に調べることができるなんて凄いし、優秀なんだということは分かる。だからこそ俺は首を傾げてしまう。
「そこまで分かったんなら、すぐに見つかりそうな気がするんだけど。半年前ぐらいに転校なり転職なりしてきた人間がいないか調べたら、一発で分からないか?」
「厄介なことに、奴はこの世界の人間と同化し、何食わぬ顔で生活している」
「ど、同化? 成りすましてんのかよ」
「ああ。違う世界のものには魔法の影響力が激減してしまうせいで、異なる世界から索敵の魔法を使ってもあまり効かない。だからわざわざここまで足を運び、直接捜しに来たという訳だ」
「つまりソイツを見つけ出してお宝を取り返せば、もうここには用なしってことで帰っちゃうのか?」
じゃあ俺とケイロの結婚は、そこまでってことなんだな。
期間限定ならまあ我慢できるかー、と思っていたのに、「そういうこと
「やめろよ……っ、俺、男とヤりたくないからな! お前だって俺を相手にするの嫌だろ? ってか、俺が問答無用でされる側って――」「俺は別に構わないが?」爆弾発言を連発するなぁぁっ! 心臓に悪い。冗談じゃないって分かるから、威力が強すぎる。俺の心、すでに焦土化してるんだけど……。理解ができず頭が混乱するばかりの俺に、ケイロは爆弾発言の投下をまったくやめない。「俺は今まで他人に興味を覚えなかったが、勘違いとはいえお前には幾分か興味は湧いた。何も感情が湧かない人間を相手にするより、少しは感情を覚える相手のほうがマシだ。それが苛立ちであろうがな」イライラする相手のほうがマシって、理解できねぇ。まさかリンチ的な感覚で俺と初夜を迎えようとしてるのか?コイツ、頭おかしい。世界が違う住人っていうの抜きにしても、思考回路があきらかに普通と違うぞ?どうにか逃れようと手足をジタバタしてみるが、ケイロにのしかかられて抜け出せない。細身の割に力が意外と強い。俺、一応野球部でそこそこ鍛えてるほうなんだけど。コイツに力負けするなんて、なんか納得いかねぇ。抵抗を諦めない俺の顔を覗き込みながら、ケイロが抑揚のない声でさらりと伝えてくる。「ひとつ言っておくが、俺を拒むのはお前のためにならないからな?」「ど、どういうことだよ?」「王族である以上、互いに好まぬ相手と婚姻を結ぶこともある。だからこそ相手が裏切ることがないよう、この婚姻には制約がつく」制約……嫌な予感しかしないんだけど。俺が背筋をゾッとさせていると、ケイロの手が俺の下腹を撫でた。「定期的にお前の体内に俺の精を注がないと、指輪が婚姻継続の意志なしと判断してお前の命を奪う。死にたくなければ抵抗を諦めろ」「……え? せ、せい……?」「俺の精液をお前の中に出す」オ、オイオイオイ……死ぬか中
その自信はどこから来てんだよ。怖ぇな……。まさか元々男が好きで、経験豊富だったりするのか? だからここまで落ち着ていられるのか?これから何をされるのか考えたくもないけど、そもそも未知の世界だ。自分がそうなることなんて想像すらしたことがなくて、俺はただ頭の中を真っ白にさせて身を強張らせる。そんな俺の首元に、ケイロがそっと手を置いた。「水と火の精霊よ、この身に流れる同胞と踊り、快く昂らせよ……」言い終わらない内に、首筋に妙な熱が灯る。チリチリと燃えているタバコの火のように、熱が小さな点で蠢いているような――と思っていたら、それが一気に全身へと広がって俺を弄び出した。「ひっ……ぁ……体が、痺れ……? なん、だコレ……ンっ……」首筋に触れているケイロの手の感触が、やけに鮮明になっていく。温かい手。肌が変にざわついて、痺れみたいなものが体の中に広がって……うわっ。ざわざわする。心臓がバクバク鳴って、背中やら下半身やらが落ち着かない。ブワッ、と肌が汗ばんで、目元が熱くなる。自分でも目が潤んだのが分かって、情けない顔をさらしている現状に唇が震え出す。恥ずかしすぎる……っ。でも体がおかしくなって嫌なのに、もっと触ってほしくてたまらない。一気に変わってしまった俺を見下ろしながら、ケイロが小さく笑った。「初めてでも受け入れられるよう、体の感度を上げさせてもらった」「な、なんだって……!?」「痛がる顔を見ながらしてもつまらん。どうせなら、強がりが言えなくなるまで、丁寧に仕込みたいところだな」「はぁ? お前、なに気持ち悪いこと言って――はわぁぁ……っ」いきなりケイロに耳をかじられて、思わず俺
……どうしよう、嫌な予感しかしない。ケイロの不穏な発言に内心冷や汗をかいていると――にゅるり。生温かくて粘ついた何かが尻の割れ目に貼り付き、俺の中へと入っていく。「な……?! うぁ……ナカ……ひっ……動いて……やだぁぁ……!」ワケの分からないものが体の中で蠢いて、思わず俺はシーツを掴む。ぐりゅん、ぐりゅん、と円を描くように動きながら、奥へ、奥へと進んでいく感触。怖くて仕方ないのに体は激しく疼いて、俺の心と裏腹にびくんっ、と全身が甘く跳ねる。もう意地もプライドもあったもんじゃない。俺はケイロの腕に指をかけ、か弱く掻きながら訴えた。「これ、ヤダぁ……やめろよ、変なもん入れるの……頼むからぁ……っ」「そう怖がるな。水の魔法で中を洗っているだけだ」「あ、洗って? そ、それだけ……ぁあ……ッ」「ついでに潤滑剤の効果も付与してある。潤いは十分か、確かめてやろう」悪戯な笑みを浮かべながらケイロは俺の中へ指を捻じ込んでくる。指先で入り口を軽く揉まれ、ぬちゃ、と粘った音が聞こえる。それが耳に入ってくるだけで恥ずかしくて死にそうだ。でも気持ち良くて、ずぶずぶと沈んでいく指がたまらない。「あ、ぁ……ン……はぁ……ぅぅん……」「指だけでも気持ち良さそうだな。中も十分に柔らかい……なんだかんだ言いながら、やっぱり悦んで俺を受け入れる体になってくれたな」言いながらあっさりと指を引き抜き、ケイロが自分の服を抜き出す。細身の割に筋肉がついた、しなやかな体が現れて思わず俺は見入っ
◇ ◇ ◇――朝、目が覚めて一番に思ったこと。あー……あり得ねぇ夢見たな、だった。そして起き上がったら素っ裸で。下半身がものすごく気だるくて。百谷家側の窓の前にある光のモヤモヤが消えてなくて。俺のパジャマも、アイツが着ていた服も床に散らばっていて――。「……はぁぁぁぁぁぁぁ……」昨日の強制ファンタジック初夜、全部現実だった……。夢でも見ねぇようなことするんじゃねーよ……と、俺は朝から肩を落とし、激重なため息を吐き出した。思い出したら悶絶して一日終わりそうな気がして、なるべく無心になって身支度を済ませ、朝食を済ませて家を出る。ガチャッと家に鍵をかけて道に出れば、まるで示し合わせたかのように隣の家からケイロが出てきた。俺に気づいてジッと見つめた後。ケイロは優越感いっぱいに微笑みながら近づいてきた。「昨夜はよく眠れただろ、花嫁殿?」「……寝たっていうより、気絶させられたようなもんだろ……やりすぎだってアレは……っ」俺を魔法でおかしくした挙句、好き勝手に抱きまくった張本人。その顔を見たらどうしても昨夜のことが脳裏によみがえって、俺の顔が熱くてたまらなくなる。耐え切れずに俺はケイロより前に出て、さっさと学校に行こうと一歩前に踏み出す。背後から早歩きで俺に迫って来る足音が聞こえた。「待て。言いそびれていたが――」ぽんっ。ケイロが俺の肩を軽く叩いて話しかけてくる。その途端、「……ッ! ぁぁ……ッ」昨日ケイロから散々教え込まれた感覚が――腹の奥からこみ上げる疼きが、俺の全身を駆け巡ってしまう。思わず膝から力が抜けて、その場に崩れ落ちてしまった。
◇ ◇ ◇「――なるほど、そういう経緯でしたか」夕方、百谷家のリビングで俺の話を聞いた百谷芦太郎先生――ケイロの兄ではなく部下のアシュナムさんが、深いため息を吐き出す。そしてソファーの端へ座る俺から大きく離れて隣に座るケイロを、険しい顔で睨みつけた。「殿下、いくらなんでもあんまりです。太智君の人生が滅茶苦茶じゃないですか!」やっぱり酷い内容なんだなあ……。 お付きの人が良心的で、ちょっと心が救われる。半分死んだ目になりながら事の成り行きを見守っていると、ケイロは嫌味なほど長い脚と腕を組みながら不敵に笑う。「ちょうど良かったではないか。前々からこっちの世界の人間で協力者を作りたいと考えていたところだし、お前たちは俺にそろそろ結婚しろと迫っていたし……問題が一気に解決したな」「もっと慎重に事を運んで下さい! あと、どちらも誰でも良い訳じゃありません! 特に妃選びは本国に候補の者が多数控えているというのに……」アシュナムさんの話を聞きながら、やっぱりそうだよなーと思ってしまう。異世界のことなんてさっぱり知らないけれど、性格難ありでも王子様でイケメン。そりゃあ結婚したいって人は多いだろう。政治的なこともあるだろうから、誰でもいいってワケにもいかない。 しっかり考えた上で選ばなくちゃいけないハズなのに――ケイロ、お前、王子失格だぞ。思わず俺もケイロをジト目で睨むが、当の本人は申し訳なくなるどころか、開き直ったように胸を張った。「勘違いとはいえ、太智は既に俺たちの異質さに気づいて観察していたんだ。家も隣。協力者として巻き込むには悪くないと思うが?」「それは一理ありますが、しかし結婚までせずとも――」「あと、俺に反発する気概のない奴らを娶る気は一切ないぞ。つまらん」……このワガママ好き放題王子め……っ。 俺もアシュナムさんも、呆れて口が塞がらなくなってしまう。会話するのもしんどくなっているだろうに、それでもこのままではいけないとばかりに、アシュナムさんはケイロに食ら
他のヤツなら大丈夫なのに、ケイロに近づかれるだけで感じる体に成り果ててしまった――症状が今朝と変わっていなくて、心の中で激しく絶望する。コレ、絶対に魔法で強引に感じる体にさせられたせいだ。普通ならあり得ない快感を与えられたせいで、体がイカれてしまったんだと思う。たった一晩の初夜でこの調子。これで回数を重ねたらどうなるんだと想像しかけて、すぐに思考が止まる。絶対に今より悪化するのは間違いない。どうにかならないのかよ!? とアシュナムさんに視線で縋ってみるが、それはもう心苦しそうに顔をしかめられてしまった。「太智殿には申し訳ないが、今すぐに婚姻を解消することはできない……先に我らの目的を果たさなければ――」「えっ? どっちか片方が死なない限り、離婚できないんじゃあ……?」「確かにそういう制約ではある。しかし、手順は複雑ではあるが解除する方法は存在する」おい、話が違うじゃねーか!まさかと思うけど、不本意ながら俺と結婚したクセに、本気で離婚したくないのか?まったく理解できずに顔を引きつらせながらケイロを見れば、チッ……と舌打ちする姿が視界に入ってくる。すごく忌々しそうな顔して、不機嫌さ全開だ。「……それには双方の同意が必要になる。俺は拒否するから、実質離縁は不可能だ」「ワガママを言わないで下さい! この地での使命を果たした後、何日も不眠不休で説得させて頂きますから、どうかそのおつもりで」百谷家の中でも一番強面の部類に入るアシュナムさんから笑みが消えると、漂ってくる気迫がすごい。この件では俺にとって心強い味方だが、それでも俺の心がすくみそうになる。ケイロもアシュナムさんも譲る気なしで、室内の空気をどこまでも刺々しくしていく。あまりの息苦しさに俺が居心地の悪い思いをしていると、「お二人とも、少し落ち着きましょう。コーヒーを淹れましたので……どうぞ」ソーアさ
「ハァ……どちらにしても、まずは裏切り者を見つけ出すことが先決です。私のほうでも探りを入れていますが、まだ見つけられず……面目ありません」コーヒーを一口飲んでから、アシュナムさんがケイロに対して深々と頭を下げる。その様子を冷ややかな目で見つめながらケイロは頷く。「引き続き、各方面へ探りを入れてくれ。不愉快なことに、奴は俺たちに気づいている。うまくこの世界の住民になり切っているんだがな」……ちょっと聞き捨てならない発言があったぞ?一瞬、なんの冗談だ? と本気で思ったけれど、ケイロもアシュナムさんも表情がシリアスなままだ。つい俺のツッコミ体質を抑えられず、話に切り込んでしまった。「いや、あんまりなり切ってないから」「「「え……?」」」「大学受験控えてる高三で五月に転校してくるって、かなりレアケースだからな? しかも数学教諭に養護教諭と生徒が同時に入ってきて、しかも三兄弟って、さらにレアで目立ちまくる案件だからな? 普通じゃないから。オンリーワンな設定だから。もう全校集会で紹介された時点で、裏切り者にバレてると思うんだけど」俺の流れるようなツッコミ連打に、三人がギョッとなってこちらを見てくる。「冗談……ではないようだな、太智」あ、ケイロが動揺してやがる。顔は平然としているけど、わずかに声が震えている。ちょっと鼻をあかせた気になって、俺はさらに引っかかっていたことを口にした。「あとさ、名前の付け方もおかしいから。太郎、次郎、三郎って、生まれが早い順につけられるもんだし」「「「な……っ!?」」」「だから本来は圭次郎じゃなくて、圭三郎ってつけないといけなかったんだよ。口に出さないだけで、みんなこう思ってるぞ。なんで宗三郎先生より年下なのに、圭次郎なんだろうって」これは引っ越しの挨拶に来た時から引っかかってたこと。今の今まで誰も聞かなかったのは、何か
◇◇◇こうして俺はケイロたちのアドバイザー的なものになった。学校を終えてから百谷家に寄って、リビングでこの世界をレクチャーする。俺の隣で聞いているケイロは、軽く目を閉じて腕を組んで、一見すると興味がなさそうだった。でも時折頷いているから、聴いてはいるらしい。あんまり身が入っていなさそうなケイロと違い、アシュナムさんは前のめりで俺のレクチャーを聴いてくれた。しきりにメモしながら、どんどん質問してきた。「この世界のことは、我らの世界からネットというものに繋がって調べていたのですが……我々が不自然になっていたということは、ネットの情報は間違っているのでしょうか?」「ネットで検索して、上のほうに出てくる情報って、それだけいっぱい人に見られてるけど、それが一般的って思わないほうがいいです」「多くの人に支持されていても、一般的ではない、と?」「お弁当ひとつ取っても、可愛いのとか豪華なのとか目を引くけど、いつもそうとは限らないし、大半の人はわざわざ作ったお弁当の写真を撮ってネットに載せませんから」「な、なるほど……っ」「それに、みんな当たり前のことはわざわざ調べないし、ネットに上げてもスルーされますから。昨日の残りもの詰めたり、手っ取り早く野菜炒めで済ませたりなんて日常のよくあることよりも、特別で華やかなものを見てもらいたいものですから」「つまり、この世界の弁当は可愛い容器や袋に入っていて、愛らしいキャラの形を作ったものが一般的ではないのですね……」「主にちっちゃい子用のお弁当です。男子高生には足りません! 人によりけりですが、見栄えよりも量が正義です! 鶏の唐揚げ弁当は鉄板ですが、毎日同じだとげんなりしますので、おかずは栄養を考えて変えて下さい」ついお弁当のレクチャーに力を入れていると、「夫のために食を気遣う……なかなか良妻ではないか」ボソッとケイロが本気なのか冗談なのか分からないことを言ってくる。何も反応しないの
俺の態度が明らかに違うと分かって、ケイロが本心を探るように目を見つめてくる。「今日はやけに積極的だな……昼間から寝ていたのは、このためだったのか」「……あっ……ケイロと、思いっきりヤりたかったから、寝て体力をためまくったんだ……いつも抱き潰されるから、返り討ちにしてやりたいと思って」言いながら俺は体を起こしてケイロを見下ろし、スウェットの上を脱がしていく。てっきりプライドが高いから少しは嫌がるかと思ったが、むしろノリノリな俺を歓迎しているのか顔が嬉しそうだ。……脱がされるのも恥ずかしいけど、脱がすのも恥ずかしいもんだな。見るな、喜ぶな、次は何してくれるんだって期待の眼差しを向けてくるなぁぁ……っ。俺のほうが主導権を握っているハズなのに、手綱をケイロに握られたままのような気がする。正直悔しいけれど、今はケイロがノってきてくれることが大事だ。見返すのはまた今度だ。羞恥と、ケイロに触れるだけで感じる体のせいで、俺の中が火照ってたまらない。一方的に俺がケイロの肌に触れ、吸い付き、キスを刻んでいく。ケイロに何かすればするほど、俺の胸がせわしなく脈打って、激しく乱されたくてたまらない体に仕立ててくる。ケイロは何もしない。初っ端からエロ全開でイカれている俺の痴態を、うっとりと見上げて楽しんでいる。嫌悪の欠片も見当たらない。その視線が嬉しくて、俺は焦って落ち着かない手で自分とケイロの下をすべて脱がし、俺の中へ入りたがっている昂りに跨った。腰を落とし、ケイロの滾ったものへ擦り付けてみれば――にちゃっ、と粘った音と感触が俺の下半身に響いた。「ここへ来る前に自分で準備したのか……」「だって、ケイロと、いっぱいヤりたかったから……っ……俺も、魔法使えるようになっちゃったし、いつもお前がしてくれるように、やってみた
◇◇◇翌日、俺はとにかく寝た。遅刻ギリギリまでがっつり寝て、授業中もできる限り寝た。船を漕ぐ程度のうたた寝じゃない。しっかり机に突っ伏して寝た。科目によっては担当の先生が起こしに来たけれど、「……あ、すみません……ぐぅ……」返事をして速攻で寝た。きっと先生も呆れ果てていたと思う。三年生の一学期にこれはヤバいだろう。成績も内申点も激下がり間違いなしだ。後のことを考えると肝がブルリと冷える。でも今日だけは特別だ。通知表を見て母さんに怒られるのも、夏休みの補習も想定内。後の面倒を受け入れる覚悟はできていた。昼食後もすぐに寝ようとしたら、「大智……大丈夫? 体調が悪いなら保健室に行ったほうがいいよ?」心配そうに悠が声をかけてくれる。そしてケイロも、「そんな所で寝ても余計に疲れるだけだ。寝たいなら保健室へ行け。だらだらとやるより、堂々と休め」なぜか胸を張って全力でサボれと言ってきた。あまりにも堂々としたサボり押しが、いっそ清々しい。せっかくだからと立ち上がった俺の両腕を、ケイロと悠がガシッと捕まえる。そのまま引きずられるように保健室へ連行され、俺はベッドに寝かされるハメになった。……ケイロにがっつり触られて、体が疼いて声を堪えるのが大変だった……悠の前で情けない姿は意地でも見せられねぇ。しばらく悶々としてたけれど、意地で抑え込んで、遠慮なく午後の授業をサボって寝た。チャイムがなるまでしっかりと寝だめした。体力を使う部活も休んで、さっさと家に帰って夕寝もバッチリ。さすがに夕食を終えた後は眠くはならなかったけれど、それでも横になって体を休めた。◇◇◇そして――百谷家の庭がパァ……ッと光り、再び暗くなった夜十時過ぎ頃。俺は気配を殺しながらゆっくり
◇◇◇午後の授業が終わって、野球部の部室に向かった時だった。「……ん?」自分のロッカーを開けたら、きちんと折り畳まれた紙が置いてあって、一度首を傾げる。丁寧で達筆な字で書かれた『坂宮君へ』という宛名。差出人の名前は書かれていない手紙。だけど誰が出したかすぐに察しがついて、思わず息を呑んだ。「どーした百谷?」近くでユニフォームに着替えていた同学年の部員に話しかけられて、俺は咄嗟に首を横に振る。「な、なんでもない。ちょっとトイレ行ってくる」「なんでもなくないじゃねーか。早く行って来いよ。トイレは何を差し置いても最優先だろ!」笑いながら部室を出て行こうとする俺を、ソイツは快く送り出してくれる。ありがとうよ、トイレの重要性を分かってくれて。俺は親指をグッと立ててソイツの心意気に感謝すると、手紙を持って体育館のトイレに駆け込んだ。個室に入って一旦深呼吸して息を整えると、俺は手紙を開いていく。そこにも送り主の性格を表すような、きれいに整った字で書かれたメッセージがあった。『直接会って話がしたい。君に合わせるから、場所と時間を指定してくれ。くれぐれも殿下には内密に』今日の昼間に伝言したら、もうマイラットから返事がきた。早いな……精霊、ちゃんと仕事してくれたな。精霊ってマジで有能だなあ、と思いながら俺は腕を組んで考え込む。ケイロたちにバレないよう密会……それができれば苦労しないんだけど。しかも会ったことないけど、俺、この人の敵側の人間なんだよな。間に悠がいるせいか、あんまり怖い感じがしない。ノコノコと勝手にひとりで行ったら、人質になっちゃう展開かコレ?でも、悠の話を聞いてると何か事情がありそうだし、悪いヤツじゃなさそうな感じもするんだよな。悠が惚れちゃった旦那さんみたいだし。うーん……としばらく唸ってから、俺はそっとささやいた。
「えっ、俺、なんか変なこと言ったのか?」困惑したまま三人で顔を見交わしてから、アシュナムさんが大きく息を呑むのが見えた。「精霊と意思の疎通が図れるとは……我々の世界ではあり得ない」なんだって? 話しかけるだけで充分だぞ? めちゃくちゃ簡単だぞ?しかも反応だって単調じゃない。いろんなバリエーションがあって、むしろ感情豊かだ。これで意思がないだなんて考えられない。アシュナムさんの発言が信じられなくて、俺は慌てて背後の精霊に顔を向ける。「そうなのか、お前?」一瞬だけ申し訳なさそうに光球が弱く輝き、逃げるように姿を消してしまう。なんだか怯えた様子だったような……ケイロたちを怖がっているのか?疑問に思いながら顔を前に向け直すと、三人ともに険しい顔をして俺を見ていた。「な、なんだよ……俺、そんな怖い顔されるほど変なことしたか?」「……いや、物珍しいだけだ」ケイロは鋭い眼差しで左右に控える二人を見やってから、こっちに近づいてくる。「もうすぐ授業が始まる。さっさと教室に戻るぞ」「ああ……って、ちょっと待てぇ、は、離れろよぉ……っ」アシュナムさんたちに背を向けて歩き出そうとした途端、俺の隣に並んだケイロがしっかりと肩を抱いてきた。ち、力が抜ける……歩くと振動が……ぅぅ、授業に集中できなくなる……ってか、これ一番誰かに見られちゃいけないヤツだろ!?速く歩けと促すように、ケイロは俺の肩を押しながら颯爽と歩く。そして背後の二人と距離を取った後、一度立ち止まって振り向く。いつになくケイロの顔が怖い顔つきで、お付きの人であるハズの二人を牽制しているように見えた。「この件に関しては他言するな。なんの力もない、俺が気まぐれで選んで固執している
もっと精霊と交流を持ちたかったが、そろそろ昼休みも終わりかけ。もう帰っていいから、って言えば消えてくれるのかなあ……と思っていたその時だった。「あ……」ケイロたちが校舎裏へやって来たことに気づいて、俺は木の陰から三人をうかがう。まだ俺には気づいていないようで、アシュナムさんとソーアさんはケイロにへりくだった態度を取っている。ケイロもかしずかれるのが当たり前と言わんばかりに偉そうだ。このまま気づかれないなら、やり過ごしたほうがいいか? こんな所で俺ひとりで何やってんだって話になりそうだし。でもなあ……こっちの世界のことをアドバイスする立場にある身としては、ちょっと見過ごせない。俺は姿を現わし、ケイロたちに駆け寄った。「太智!? どうしてここにいるんだ?」驚くケイロに答える前に、俺は周囲を見回して人がいないことを確かめた上で近づき、コソッと告げた。「精霊が使えるようになったから、魔法の練習してたんだよ」「そうか。休みを強要されていても、自ら進んで鍛錬するとは良い心がけだな。さすがは俺の嫁だ」「学校で嫁呼ばわりするな……って、そんなことよりも! かなり重大な話があるんだけど」「なんだ?」「ケイロたちって、いつも校舎の中で集まったら三人一緒に行動しているのか?」俺の問いかけに、ケイロがきょとんとなる。そして心底「なぜそんなことを聞くのだ?」と言いたげに首を傾げた。「ああ、そうだが? 立場は違えど兄弟なら校内で一緒にいてもおかしくないだろ?」「……お前のキャラに合ってない」「どういうことだ?」「人と馴れ合わないクール男子は、学校で兄弟仲良く並んで歩かねぇ! むしろ身内とは顔を合わせないように避けるか、短く用件を伝えてさっさと離れる。基本、俺らぐらいの男子高生は兄弟と馴れ合わないことのほうが多い」「な、なん、だと…&helli
「うおっ、本当に出た。前から気になってたけど、これどうなってんだ?」俺は思わず指を差し出し、光球に近づけていく。モワッ、と。触ったという手応えはないし、そのまま指が精霊を貫通してしまった。指が入っているところはほんのり温かくて、風呂場の湯気に指を突っ込んでいるような感触だ。不思議だなあ、と思いつつ何度も指を上下させていたら――スス……。光球が自分から動いて、俺の指から離れた。「もしかして触られるの嫌だった?」呟いて小首を傾げる俺に、光球が一瞬光を強めた。まるで返事をしてくれたような行動で、俺は首を伸ばし、顔を近づけながらマジマジと観察する。「ひょっとしてお前、意志があるのか! へぇー……なあ、喋ることってできるのか?」この質問にはなんの反応も見せない。どうやらこれが否定らしい。まさかこんな光の球と意思疎通ができると思わず、俺は目を輝かせてしまう。ゲームや漫画好きなら憧れるファンタジー展開が今、目の前に……っ!こんなところをケイロたち以外の誰かに見られたら、間違いなく変人認定される。校内でこんなことするもんじゃないよな、とドキドキするけど、溢れる好奇心は止められなかった。「お前らもあっちの世界から来たのか? ……あ、光らねぇ。こっちにもいるんだ。へぇぇー……食べ物とか食べられるのか? せっかくだし、お近づきのしるしに何かあげたいんだけど……あ、ダメなのか」何もあげられないのは残念だなあと思っていたら、子犬がまとわりつくように光球が俺の周りをクルクルと回る。どうやら俺の気持ちは嬉しかったらしい。「食べられないなら、一緒に遊んだりするほうが嬉しいのか? 鬼ごっこしたりとか……うわっ、眩しいっ。そっか、そういうのは好きなんだ。なんか子供というか、人懐っこいワンコっぽいというか……あ、急に光が消えた。スン顔した
◇◇◇休み明けの授業中。期末テストが近いと分かっていても、授業の内容は頭に入って来なかった。ケイロの国に力を与えている百彩の輝石。その輝石を守りたい。国のためにならないからと盗んだマイラット。少し話を聞いただけでも、輝石を奪われたことが国の一大事だとは分かるし、王子のケイロが直接乗り込んでくるほどのことなのも理解できる。でも悠の話が本当なら、どうして国のためにならないんだ?輝石を守るって、マイラットってヤツは何から守りたいんだ?国家転覆の陰謀とか、国の威信とか、王家の裏事情とか……そんな漫画やラノベな世界とは一切無縁な一般高校生の俺。あれこれ考えて真実を見つけ出すなんてまずできない。ムリ。期末テストで赤点回避するだけで精一杯な頭だし。考えても無駄――って分かってるのに、それでも頭が勝手に働いてしまう。ケイロたちはマイラットの意図は知ってるのか?もし悠から聞いた話をしたら、何か前進するか?……でも悠からは、自分のことを言わないでくれって頼まれてるしなあ。悠が協力者だって分かったら、容赦しないだろうなケイロは。魔法で自白は通常運転だろうし、マイラットをおびき寄せるために、悠を利用するかもしれない。一緒に昼食を取る仲でも、たぶんケイロはやる。だって国の一大事だから。親友を追い詰める真似はしたくない。けれど、このまま放置はできない。一回、マイラットから話が聞けるといいんだけどな。あっちの事情が分かったら、もしかしたら何か状況が変わるかもしれない。知らないから困るんだよ。うん。誤解の元だ。俺は巻き込まれちゃった第三者だから、当事者じゃない分だけ怒らずに事情は聞けるし、もしマイラットが悪いヤツで何か仕掛けてきたら遠慮なく倒せるし……俺が密かに動くしかないよな。うーん、これって内助の功になっちまうのか?ケイロのことを考えて動こうとすると、全部夫婦絡みな感じがしてならない。な
◇◇◇夜になっても俺がベッドでゴロゴロしていると、「やっていることが昼間とまったく変わってないな、太智」なんの前触れもなくケイロが部屋に入ってきて、俺はビクッと肩を跳ねさせる。「急に入って来るなよ! せめて一声かけてくれ。親しき仲にも礼儀ありって言うだろ!? お前だって俺が不意打ちで部屋に来たら困らないか?」「驚きはするが、歓迎するな。お前から積極的に夜這いへ来てくれるのだからな、喜んで相手をするぞ」「なんでもかんでも夜の営みに繋げるなぁ……どうしてこんなにヤりまくってるのに、まだ身の危険を感じなくちゃいけないんだよ」筋肉痛を全身へ響かせながら体を起こした直後の問題発言に、俺はベッドの上でうな垂れる。そして密かにケイロが部屋へ来た途端、いつも通りの空気になったことを驚く。昼間に悠から教えてもらった話を延々と考えて、ついさっきまで引きずって胸が重たくなっていたのに。あっという間に元の調子を取り戻して、何事もなかったようにやり取りできてしまう。まだ出会って二か月が経過するかしないかの期間なのに、もう夫婦の空気が板についている。ケイロについて知らないことが山ほどあるっていうのに……。俺は頭を掻きながらケイロに尋ねる。「今日はどこへ行ってたんだ? もしかして、あっちの世界?」「ああそうだ。面倒なことに定期的に報告しなくてはいけなくてな……奪われた百彩の輝石は、我が国にはなくてはならない秘宝。早く取り返さなくては、これからの行事や国の大事にも影響が出てくる」「百彩の輝石ってそんなにすごいものなのか?」ケイロたちがこっちに来た目的の、百彩の輝石。さり気なく尋ねてみると、ケイロは小さく頷いた。「ああ。遥か昔、精霊王が親愛の印にと祖先へ贈ったものらしい。それを覇者の杖にはめ込めば、その杖を手にした者はすべての精霊を使役し、あらゆる魔法を可能にする」「魔法使いの最強装備じゃねーか。そりゃあ持っていかれたら困るよな」
『あー、ムリムリ。三日に一度は中に出されないとダメなんだぞ? 体も頭もおかしくなるって』『え……? 三日? 中に出されるって……?』『え? 悠は違うのか?』『僕は……一週間に一度、キスしてる。舌を絡め合う濃厚なやつ』思わずスマホの画面を見ながら俺は固まる。そして動揺任せに素早く文字を入力した。『はぁぁ? それだけでいいのかよ!』『それだけって……ベロチューだよ!? しっかり唾液飲まなくちゃいけないんだよ!?』『俺のに比べたらかなりマシだから、それ! 時間かかんねぇし、体に負担もかからねぇし、キスなら挨拶みたいなもんって割り切れるし!』『割り切れないよ! あんな濃厚なの、雰囲気出されながら丁寧に毎回されたら……』悠の困惑が伝わってきて、不意に保健室で指輪を見せてきた時のことを思い出す。巻き込まれたのに、相手と夫婦であることを受け入れていた――俺と同じだ。悠の本心が分かって、俺はため息をついた。だよなあ……ベロチューでも意識しちまうよなあ。そりゃあ中に出されちゃったら、意識するどころじゃなくなるよなあ……。思わず遠い目をして現実逃避しかかった俺を、ピロリン、と返信の通知音が引き止める。『太智は何をされたの?』『口では言えないスゴいこと……察して。頼む』『あ……え、最初から?』『最初から。もうお婿に行けない』『どうしてそんなことを……そこまでしなくてもいいのに』頭の片隅でチラついていた疑問を悠に書かれ、俺の中の戸惑いが一気に膨らむ。抱かなくても良かったのに、なんで嘘までついて俺を抱いた?今はちゃんと両想いで、心が伴っている。昨日あれだけ確かめ